SF

MIT?

その時、二俣川駅の改札を抜けた所だった。
ふと、今日は何曜日だったかなと考えた。


腕時計を覗き込む。
2年前にアメ横で1万円で手に入れたSTORMの時計だ。
現場作業でガラスに傷をつけてしまったが、日付と曜日の
表示窓があることと、何より文字盤の青さ加減が気に
入っている。


時刻は19時48分。日付は当然ながら21日を示している。
そこで曜日が奇妙な文字列を表示している事に気付く。
MITと。


一瞬、時が止まる、と同時に寒々しいものが体を通り抜ける。
MITという曜日が存在したのだろうか?
どう頭の中を検索しても、その様な曜日は無い。
目の錯覚だろうか?だとしたら相当疲れているのか?
しかし、何度目を凝らしても、MITの文字列は変わらない。


ケータイのカレンダーを確認する。漢字で「水曜日」と書いてある。
日本語の曜日は、今までと何ら変わりの無い事を確認する。
水曜日であれば、時計には慣れ親しんだWEDの文字列が表示される
筈であるが、相変わらず奇妙な文字列を表示し、これが紛れも無い
事実である事を突きつける。


竜頭を回して、他の曜日を確認してみようか?とも考える。
しかし、もしそこで別の知らない文字列が表れた時、その瞬間
今まで過ごしてきた世界との決別を意味する。
水曜日をMITと表記するパラレルワールドへの転移を意味するのだ。
そして、もしそうなった場合、自分の中の何かが壊れてしまう予感がする。
結果、竜頭は回さない事にする。


家まで帰りながら、何度も時計を見やる。
MITは相変わらず表示しつづけるが、自分の頭が正常かどうか、
いささか自信がなくなりつつある。


かつて星新一の作品に、この様な手法で日常の些細な齟齬を増幅し、
妻とその愛人が、夫の気を狂わす という話があったが、
これも何かの陰謀だろうか?


日付が変わった22日0時50分現在。
相変わらず曜日はMIT表示のままである。